微 量 元 素
Trace Elements in Horses


〔 T 〕 Dr.Strickland について

1931年生まれ、アイルランド国籍。
ダブリン大学獣医学科を卒業し、博士号を修得。
1957〜74年まで サウジアラビア、ヨルダンなどの国で 王室直属の競走馬生産と育成部門の専属獣医を
勤めるかたわら 1963年より自国農業省において獣医学研究所の馬専門部門で活躍。
1968年には所長に就任。
1995年、定年退職する前までは競走馬専門獣医局局長として 数々の研究発表を行い、その退職後は
アイルランド及び英国の各競走馬生産者協会での相談役兼外科獣医として活躍し、著書も発行する。
Irish Throughbred Breeder's Association( アイルランド サラブレッド生産者協会 )の名誉会員兼評議委員。
International Breeder's Association( アイルランド国際生産者協会 )会長。
現在も 獣医師兼競走馬生産コンサルタントとしてキルディアを中心に活動中で海外からの講演依頼も多い。

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〔 U 〕 微量元素とは......

微量元素は 微量で動物に影響をもたらしますが、それぞれの成分が それぞれ違った3つの域、すなはち
@ 欠乏域、A 安全域(必要域)、B 毒性域(過剰域)、を持ちます。
  ←―――――― | ←―――――― | ←―――*―――→ | ――――――→ | ――――――→
   高度の欠乏域     欠乏への段階域     安全域(必要域)    毒性への段階域    高度の毒性域
それぞれの微量元素は 上図で言う「安全域」の巾に差があります。つまり、成分によっては非常に大きな
巾を持ち、これは即ち摂取量不足による「欠乏への段階域」に進むまでの量に巾を持つことが可能であり、
また、与え過ぎによって 「毒性への段階域」に進むまでの量にも巾を持つ事が可能であると言う事です。
逆に、この巾が非常に小さい成分もあり、これは微量のプラス・マイナスで毒性の域に入ったり、欠乏の域
に入ったりすることになります。
また、「欠乏への段階域」においても成分によって幾つかの段階差があり、これによって疾患や病気などの
進行状態も変ってきます。 最終的には「安全域」から「欠乏」と「毒性」の2つの進行方向に進めば進む程、
それは 疾患や病気に向かう事になり、最終的には死につながるということになります。

高度の欠乏高度の毒性によって発生する問題点というものは成分によって具体的に異なりますが、
微量でありながら上図のような段階に別けることが出来るので、それ程 その微量の量というものが重要に
なってくる訳です。   尚、これらの「欠乏」と「毒性」から発生する問題点や その段階域は 成分の種類
だけでなく その対象動物の種類によっても異なります。

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〔 V 〕 競走馬に必要な微量元素

馬にとって重要とされる微量元素として 特に以下の6つの成分が挙げられます。
        @ 銅 / COPPER                C ヨ−素 / IODINE
        A 亜鉛 / ZINK                D セレン / SELENIUM
        B 鉄 / IRON                  E マンガン / MANGANESE
これらの6つの微量元素は 前項の「安全域」の範囲の中で維持されなければなりませんが、これらの成分は
それぞれの成分の性質上、摂取バランスを考えなければなりません。この時、下記の様な組み合せの場合、
相互作用が働く為、体内で これら3つの内のどれかの成分を過剰に摂取することによって 他の2つの成分が
体内で消失したり 吸収出来なかったりします。
〔 組み合せ 1〕 銅 : モリブデン : 硫黄
〔 組み合せ 2〕 銅 : 亜鉛 : 鉄
例えば 体内の亜鉛が必要以上に過多になると 体内のが消失されたり、 馬がモリブデンの含有量が
必要以上に多い土地で放牧されていたりするとが吸収されなかったりします。
この様に成分の組み合わせによる相互作用によって それぞれの成分の体内維持がコントロールされる為、
成分の過不足というものは ただ単に その成分を与えたり、与えないようにするだけでは簡単にコントールが
出来ないと言う事であり、もっと簡単に言えば、「○△」が不足しているからと言って それだけを与えても
効果が現れるとは言えないと言う事です。
非常に微量にもかかわらず これだけの話になる訳ですから、この微量元素というものがいかにセンシティブ、
かつ、重要なものであるか お分かりかと思います。

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〔 W 〕 D.O.D.との関連性

D.O.D.( Developmental Orthopaedic Disease ・「発育期骨疾患群」 )は、次の3つが その発症の要因と
考えられます。
   (1) 遺伝的要因
   (2) 栄養的要因
   (3) 肉体的要因
これらの要因のうち、(2)の栄養的要因では 微量元素の過不足が非常に その発症度合に関連してきます。
数種の微量元素のうち、亜鉛は、非常に大きな関わりを持ちます。
〔 U 〕銅と骨の関係 の中で、亜鉛〔 Y 〕 亜鉛の量と 馬に対する亜鉛の必要性 の中で それぞれ
説明しておりますのでご覧になって下さい。
特には、我々が知らない部分まで奥深く関係しており、薬物治療以外においては を 対D.O.D.の一種の
特効薬として使う獣医さん方が欧州には沢山おり、これは 銅の重要さ がまだそれ程浸透されていない日本
では非常に重要な情報なのではないでしょうか。

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〔 X 〕 亜鉛のもたらす効用
亜鉛のもたらす有効性毒性人間など、馬以外の動物に対してのみ かなり解明されてますが、
残念ながら、特に「馬 」に対する役割は まだ完全に解明されていないというのが現状です。
ただし、同じ哺乳類動物として亜鉛多くの酵素ホルモン組織の形成に必要不可欠であると言うことが
他の動物と同じであると考えられますし、以下の)<から )までで示してある これら馬以外の動物の効用が
馬にも適用されると仮定されます。

 A) 細胞の二重鎖 (DNAが細胞の複製を作る過程)。      DNAやRNAの構築安定。
 B) 傷の自然治癒力UP。     角質母体の抗張力。
 C) 骨格の発達。
 D) 免疫システムの保持。
 E) 外皮質の保持と毛や爪(蹄)の発育。
 F) 味覚と食欲の保持。
 G) 視力、暗視力と眼球質の保持。 
 H) 生殖器官の発達と機能調整。  テストステロン(男性ホルモンの一種)の生産。  
      性本能エネルギーの発生。  胎児の発生と成長。   精子形成。
 I) プロラクチンホルモン(PRL:泌乳促進ホルモン)の生成。   甲状腺ホルモンの生成。
 J) 成長ホルモンの生成。  脳下垂体水準の減退防止。
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〔 Y 〕 亜鉛の量と 馬に対する亜鉛の必要性

馬の場合、成馬であれば 40mg程度が1日の必要摂取量と言われています。
しかしながら、亜鉛とは違って 過剰に与えた時の「毒性」が強く、下記の様な障害が出ます。
貧血 ・ 骨端炎 ・ 硬直 ・ 骨粗相症
また、微量元素の相互作用で説明した組み合せ( 〔 V 〕 競走馬に必要な微量元素 )の法則によって
亜鉛の摂取が過剰になると、体内において自然と不足を引き起こす為、不足で起こりうるいくつかの
症状も間接的に発生の可能性があると考える必要があります。

数年前、オーストラリアのある牧場で それまで何年も続けて骨粗相症の馬が出る確率が非常に高い
という事があった為、その土地と そこに生えている牧草を検査しました。 その結果、亜鉛の含有量が
異常に多く、計算してみると、馬1頭あたりが1日に 約90gもの亜鉛を摂取していたという事実が判明
したのです。
そして、その理由が その牧場の近くに亜鉛の鉱山があった為に そうなってしまったとされているのですが、
これが決定的な亜鉛過剰の毒性の判例として今でも語られています。

前項の 亜鉛のもたらす効用に記した効力の数々は馬以外の動物のものですが、これを馬におきかえて
考えてみますと、動物学上の見地からすると ))D) が重要になり、繁殖牝馬を考えた場合などは
) )が重要で、競走馬としての必要性からすると、あたりが重要になってきます。
特に に関しては 競走馬の生産上、経済的観念(種付けから受胎までの過程と 堕胎の防止など
絡んでくる効力であり、特に生産者側からすると、繁殖牝馬への亜鉛の適量範囲内での補充は絶対
であると言えるのではないでしょうか。

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〔 Z 〕 繁殖牝馬への亜鉛の補充

繁殖牝馬に対して望ましい亜鉛の摂取量は1日約200mgと考えられます。
これは 繁殖でない馬より多い数値になりますが、亜鉛の持つ効能と繁殖牝馬として求められる生殖的、及び
生理的作用を考えて微量元素安全域の範囲内で 普通の馬よりも亜鉛を増量させています。
また、出産の3ヶ月くらい前から次の種付け後の受胎確認までの期間においては 1日約300mg亜鉛
摂取が理想的であると考えます。

上記の数値は、まだ馬に関しての微量元素の「安全域範囲」内ですが、その吸収率によってはの消失を
起こすことがあり、この時点での摂取不足の範囲にいる馬の場合、この消失により 銅の「欠乏域範囲」に
入ってしまい、それによる障害が出てくる事になります。
従って、亜鉛の量が通常より少し増える分、も必ず必要量与えておく必要があるのです。
の量が不足の域にあるかどうかの目安として 亜鉛に対して という比率を参考に与える量を
調整するのがベストです。
亜鉛 : 銅 = 3 : 1
つまり、亜鉛の摂取量が300mgの時、最低100mgないといけない訳です。
なお、の過多による亜鉛の消失はありませんので 逆パターンの心配はありません。

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